エッセイ(01)『傾いた円グラフでもOK?!』
いまから40年以上前、まだノートパソコンなんて夢のまた夢だった時代の話です。
当時のコンサルティングやマーケティングリサーチの報告書は、まさに「手作業の芸術」でした。
『グラフは手作業⁈まさに職人技の時代』
報告書を作るには、まず「グラフライター」という機械を使ってグラフを描きます。
これは、数値を打ち込むとペンが自動的に動いてグラフが描かれるという、当時としては画期的なアイテム。
しかし、それで終わりではありません。
次の工程が「手作業での仕上げ」です。
1)グラフをカッターナイフで慎重に切り取る
2)紙の台紙にピッタリ貼り付ける
3)コメントを手書きする
今では考えられないほどのアナログ作業ですが、これが当時の標準プロセスでした。
『先輩の声~「グラフはちょっとくらい傾いててもOKだぞ?」』
ある日、私はいつもどおり慎重に円グラフを切り取り、まっすぐ貼ることに全集中していました。
そんなとき、先輩がポンと一言。
「おいおい、少しくらい斜めでもいいから、もっとサクッとやれよ!」
・・・え?グラフはまっすぐ貼るものでは⁈
「グラフは見てわかればいいんだ。時間かけすぎだぞ!」
確かに、グラフの本質はデータにあります。
多少傾いていても、正しく読めればそれでOK・・・というのが、先輩の持論でした。
しかし、生真面目な私は納得できない。
「いやいや、斜めのグラフなんて、どうしても落ち着かない!」
そこで、できるだけ早く、かつ正確にまっすぐ貼る技術を磨くことにしたのです。
『努力の方向、間違ってませんか?』
しばらくすると、先輩から特に何も言われなくなりました。
「よし、ついに“早くて美しいグラフ貼り術”をマスターしたぞ!」と、私は密かに達成感を感じていました。
ところが今考えてみると・・・
おそらく先輩は心の中でこうツッコんでいたに違いありません。
「お前、努力の方向、完全に間違ってるぞ?」
『時代が進み…あの苦労は何だったのか⁈』
やがて時代は進み、パソコンが普及し、デスクワークはどんどん機械化。
グラフはワンクリックで自動生成され、まっすぐ貼る技術なんて完全に不要になりました。
あのとき必死に鍛えた「グラフをまっすぐ貼るスキル」は、まるで時代に置き去りにされた化石・・・。
いや~、やっぱり努力のベクトル、ちょっとズレてましたかね(笑)。